NEW SOLUTIONSPublished:2023.03.07

地方創生に新たな可能性を生み出した「チームビルディング・ツーリズム」とは。地域のインナーコミュニケーションを促す観光事業(後編)

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※この記事はTransformation SHOWCASEからの転載です

 

株式会社 電通アドギアと地方自治体が協働で取り組むチームビルディング・ツーリズムは、地方創生や地域の消費拡大を見据え、企業研修プログラムを提供する事業です。実際に取り組んでいる福島県南会津町では、これまでに2回のモニターツアーを実施し、既に大きな手応えを得ているといいます。

 

Transformation SHOWCASEでは、研修プログラム参加企業を受け入れる南会津町役場の阿久津政臣氏、プロジェクトをサポートする電通アドギアの木村貴光氏に、チームビルディング・ツーリズムの可能性についてインタビューを実施。後編では、持続可能なチームビルディング・ツーリズムを見据え、さらに論を深めていきます。

 

地方を荒らさず、いかにして持続可能なビジネスモデルを見出すか

 

Q.南会津町は、これまで2回のモニターツアーを実施し、1回目は東京都のIT企業と鹿児島県の建設業の計2社、2回目は東京都のIT企業、映像制作会社、イベント企画会社の3社が参加したそうですね。実際に実施されてどうでしたか?

 

木村:この企業研修には、2つの側面があると考えています。1つは南会津町を訪れ、研修を行った企業に喜んでいただけたか。単なる観光ではないため、企業の課題にきちんと向き合えたか、課題解決の糸口が見つかったかという視点が重要です。この点に関しては、2回とも大変高い評価をいただきました。私たちの意図通り、企業にとってさまざまなフィードバックのあるツアーになったと自負しています。

もう1つの側面は、南会津町の11事業者の変化です。このプロジェクトは、電通アドギアではなく、11事業者からなる推進協議会が自らツアープランを企画・提供します。2回実施したことで南会津の事業者の皆さんがコツをつかみ、「もっとこうした方がいいんじゃないか」と活発に意見を交わすようになりました。とても能動的になり、町の皆さんの意識も大きく変化したように感じましたね。

 

阿久津:推進協議会を立ち上げたころは、 このやり方で本当に企業研修として成り立つのか、協議会の皆さんも半信半疑な部分もありました。ですが、初回のモニターツアーを終え、手応えを感じたようです。2回目は、皆さん前のめりでツアーを企画してくださいました。

 

Q.推進協議会の皆さんからは、どんな声が上がっていますか?

 

阿久津:「この事業をぜひ続けてほしい」というご意見をいただいています。ある建築業の方は、これまで南会津内で他業種の事業者と関わりがなかったそうで、地域内の横連携が生まれたことをとても喜んでいました。また、企業研修を受け入れる立場として、自分たちに何ができるのだろうと不安を抱えていた事業者の方もいらっしゃいましたが、2回のモニターツアーを通して自社の役割を再認識したそうです。こういった話を聞き、私も何としてでもこの事業を継続したいと考えています。

 

福島県南会津町 阿久津 政臣氏

 

Q.多くの自治体が、外部からいかに人を呼び込むかという視点で地域創生を考えているかと思いますが、阿久津さんも木村さんも地域内、つまり内側の話をされていますね。まず町の方々の連携を深め、地域を活性化させるというのが、面白い視点だと思いました。チームビルディング・ツーリズムに取り組む過程で、こうした視点を得たのでしょうか。

 

木村:一言で言うなら、持続性があるかないかという話だと思います。残念ながら、地方創生という名目で補助金目当ての企業が地方に乗り込んでいったものの、その企業が去った後に何も残らない、というケースもあります。さらに言えば、もともと仲が良かった地域の皆さんの間に、潤った人とそうでない人の格差や軋轢が生まれることもあるかもしれません。短い期間であれば、カンフル剤のような効果は生まれるかもしれませんが、その状態がずっと続くわけではないでしょう。お金、人、ネットワークというリソースを、どうすればその町で持続させられるか。そこから考えると、やはり地域コミュニティを強くするしかないんじゃないかというのが、私の結論です。

そのために、地域の方々がつながるきっかけや場をつくるお手伝いができるかもしれない。それがコミュニケーションを仕事とする企業としての務めではないかと、あらためて感じました。

 

地域の事業者の横のつながりを大切にする

 

Q.当初は「MICE」の一環として企画された事業ですが、全く違う形で実を結んだように見えます。木村さんは、プロジェクトを経て意識の変化はありましたか?

 

木村:私たちの仕事では、エンドユーザーの声を聞く機会があまりありません。ですが、南会津町の方々と向き合ううちに、皆さんがどんな暮らしをしていて、どのような思いを持っているのかが少しずつ分かるようになっていきました。その中で、私たちの都合で「この町を動かした」という気になってはいけないと思うようになりました。私たちは月に1度、南会津町を訪れるだけですが、そこにお住まいの方々は、当然ながらずっとそこで暮らしています。私たちが居ても居なくても、そこでの暮らしは続くわけです。通りすがりの企業が、偉そうに何かをした感を出すのはエゴでしかないと思いました。

 

株式会社 電通アドギア 木村 貴光氏

 

Q.阿久津さんは、いかがでしょうか?

 

阿久津:今回この事業を始めるにあたって、9事業者にヒアリングしました。そのとき、「実は自分たちもいろいろなツアーを企画しているけれど、自分たちのところだけで終わってしまっている。もしこちらの事業者と一緒にツアーを組めば、1泊2日にできるし、違う視点でお客さまに楽しんでいただけるはず。でも、つながりがないからできない」という話が出たんです。それを聞いたときに、「チームビルディング・ツーリズムを行うためには、何よりも地域内の連携が必要なのではないか」と思いました。そうやって連携を深めることで、1町3村が合併した南会津町もうまく回っていくんじゃないかとも考えました。

ただ、実際に事業を進めるにあたり、その考えが徐々に頭から抜けていった時期もありましたね。企業研修を行うには何が必要なのか、推進協議会をどうやって立ち上げようかという方向に、頭がシフトしてしまったためです。ですが、2021年度はコロナ禍でモニターツアーが中止されることになり、時間に余裕が生まれ、木村さんから「各事業者の横の連携を強化するために、まずは町内視察会をやった方がいいのではないか」とご意見をいただいたんです。推進協議会の皆さんからもご要望があったので、実施することにしました。

すると、「人となりは知っていたものの、この事業者はこんなことに取り組んでいたのか」「この商品を作るために、こういう努力をしているのか」と今まで見えていなかったものが見えるようになりました。そこであらためて、結局は何をするにしても、横のつながりが大切だと再認識したんです。まずはこの町を、この町の仕事に関わっている方々をよく知って好きにならないと、外から人を呼んでも好きになってもらえない。そう考えるようになりました。

 

Q.「まずは自分自身がファンになる」というのは、ファンマーケティングの原点ですね。今後は、チームビルディング・ツーリズムをどのように発展させたいとお考えでしょうか。

 

木村:今回の事業に取り組み、私たちとしても「こういうやり方があるんだな」と1つのモデルを作ることができました。面白いのは、隣の町で南会津町と同じモデルが通用するかといえば、そうではないというところです。1,700の自治体があれば、1,700通りのやり方が必要だろうと思います。

とはいえ、町の方々の気持ちを1つにする道筋、同じ目標を達成するプロセスには、汎用性がありそうだとも感じています。そのノウハウは得られたので、今後の展開や他の地域へも生かしていきたいですね。

 

Q.南会津町とは、今度どう向き合っていくのでしょうか。

 

木村:ここからが本当の正念場です。阿久津さんとよく話しますが、推進協議会の皆さんに「そういえば電通アドギアが来て、あんなことをやってた時期もあったね。懐かしいね」と思われるようではいけないと考えています。チームビルディング・ツーリズムを生きた仕事にするには、これからが勝負。まだ手探りですが、10年、20年と、南会津町に残るプログラムに育てていきたいです。

Q.阿久津さんからも、今後の展望をお願いします。

阿久津:推進協議会の皆さんも、チームビルディング・ツーリズムに対する理解を深めつつあるので、引き続きこの取り組みを継続していきたいと考えています。前例のない先進的な取り組みですし、人と人とのつながりが重要なので一朝一夕にはいきませんが、せっかく町の皆さんが同じ方向を目指して「よし、やろう!」と機運を高めているので、モニターツアーの先の本格展開につなげていきたいですね。

 

 

 

南会津町におけるチームビルディング・ツーリズムは、地域の事業者の横連携を深めるとともに、研修に訪れた企業にも実り多いWin-Winの関係を築くことができています。電通アドギアはこのフレームを他の地域に応用し、南会津町はビジネス化を視野に取り組みを拡大するなど、今後の成長可能性も大いに期待できるでしょう。地域活性化や人口増を目指す自治体は、新たな観光事業として、地方創生として、チームビルディング・ツーリズムを検討してみてはいかがでしょうか。地方創生のプロジェクトを10年、20年と続けていくためには、自治体内に横のつながりが生まれることが重要。電通グループは組織内交流のきっかけづくりからサポートすることができます。「チームビルディング・ツーリズム」についてはもちろん、「チームビルディング」に一丸となって取り組みたいという方や、組織運営に課題を感じる方は、ぜひお気軽にCONTACTよりお問い合わせください。

 

福島県南会津町

総合政策課企画政策係長

阿久津 政臣 Masaomi Akutsu

 

1975年南会津町(旧舘岩村)生まれ。2000年旧舘岩村役場に入庁。福島県庁派遣などを経て現職。

 

#福島県南会津町 #阿久津政臣 #チームビルディング・ツーリズム

 

株式会社 電通アドギア

地域デザインラボ

木村 貴光 Takamitsu Kimura

 

1975年長野県生まれ。1999年株式会社 電通アドギア入社。入社以降、酒類・飲料、化粧品メーカーなどの広告プロモーションを担当。2021年同社の自治体向けソリューション「地域デザインラボ」を立ち上げ、チームビルディング・ツーリズム事業を推進。自治体職員向けプロモーション人財育成アドバイザー、横浜市・西新宿エリア「パークサポート」プロジェクト、地方紙 新規事業開発 外部アドバイザー、自治体LINE公式アカウント プロジェクトマネジメント ほかを担う。

#株式会社 電通アドギア#木村貴光#チームビルディング・ツーリズム

 

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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